家、土地ともに夫婦の共同名義になっていたのだが、奥さんがすべてを任されているといって夫の委任状を見せられ、価格も折り合いがついてついに契約することができた。そうして、いざ引っ越しというときになって、その家のご主人から電話が入った。「あんたたちは、わたしの家を買ったといいふらしているそうだが、いったいどういうことだ!」「奥さんからご主人の委任状が提出されて、もう契約は終わっているんですが.…:」「そんなことを依頼した覚えはないし、いっさいわたしとは関係ない。女房も家を出ていった。わたしは委任状など書いたことはない。筆跡鑑定したらわかる」それだけいうと、一方的に電話を切ってしまった。自信たっぷりのいい方だったので、もしかしたらこの夫婦は別れたのかもしれないと、田中さんは思った。「そうなると、ちょっと面倒なことになるかもしれない。の七掛け。もう一度正規の委任状と念書を夫に書かせた値段にしては高すぎた。こういう具合に、共同名義の売買にはわりとトラブルが多い。名義人のすべてと契約を交わさなければいけないのに、出された委任状を丸ごと信用してしまう。そういうことにかけては、プロのはずの不動産屋までときどき失敗することがあるから、念には念を入れなければならない。わたしの会社では委任状の確認を怠り、お客さんに被害を与えてしまった司法書士のクビが飛んだことがある。この場合も、共同名義の土地、建物がやはり委任状とともに売りに出されたものであった。